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  9月17日

お風呂から上がってリビングに入ったら、

夫が慌てて電話を切った。

何かやましいことでもあるんだろうか。

 

  9月18日

特売日。 卵(M)1パックが99円になっていたので買った。

「お1人様1パックまで」 と書いてあったが、

長女と次女にも持たせて合計3パック。

でも特売品なので賞味期限が近い。

よく考えたら、あと3日で卵30個も使いきれるわけがない。

失敗した。

 

  9月19日

ゆで卵好きの長女が、今日1日で5個の卵を消費した。

その他、朝は目玉焼き4つ、昼はチャーハンに混ぜて2つ、

夜は厚焼き玉子に4つで、合計15個使ったことになる。

この調子なら楽勝じゃないか。

 

  9月20日

次女と夫は卵料理に飽きたようだ。

実は私も飽きている。

長女だけが、今日もゆで卵を4個食べた。

 

  9月21日

夫が電話の子機を自分の部屋に持ち込んで、

1時間以上話しこんでいる。

誰から?と訊いたら、取引先の人だ、と。

絶対うそだ。 夫の声の調子からして絶対違う。 あれは女だ。

 

 

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絵里とさゆみちゃんは急激に仲良くなった。

毎日のように一緒に遊んでいる。

‥‥ので、私も便乗。

さゆみちゃんは、うちにもよく遊びに来るようになった。

 

「ひとみさん、今度3人でカラオケ行きましょう」

「えぇ? なんで?」

「だってさゆみ、ひとみさんと仲良くなりたいもん」

「え‥‥あは、いやぁ、さゆみちゃんがそう言うなら、ふへへへ」

「よし、じゃあ決まり! 来週、予定空けといて下さいね」

 

任せて下さい!

私はいつでも暇ですよ!

あなたとの予定が最優先ですから!

 

「あ、それとさゆみちゃんっていうの、やめません?」

「えー、じゃあ何て呼べばいいの」

「さゆでいいです、さゆで」

「さ、さ、さゆかぁぁぁ。 うわああああ」

「だめですか?」

「なんか恥ずかしいよー」

「やだちょっと赤面しないで下さいよ、

 さゆみまで恥ずかしくなっちゃう」

 

私たちの会話を聞いていた絵里が、呆れてため息をついた。

 

「なんか気持ちわるーい」

あー、自分でもそれは自覚してる。

「お姉ちゃんだけならまだしも、さゆまでキモーい」

バカ、何てこと言うんだ。

さゆみちゃんがキモいわけないだろ。

「なんか付き合い初めのカップルみたーい」

えへ‥‥そうかな。

 

思わずにやけそうになって、慌てて顔を引き締めた。

まずい、キャラ変わってる。

私はこんな締まりのない人間じゃなかったはずだ。

 

‥‥しかしカップルか‥‥ぐふふ。

ほんとにそうなれたらいいなぁー。

 

 

正直、自分がこんなに彼女にはまるとは思っていなかった。

さゆみちゃんはどこからどう見ても女の子だし、

私はストレートだ。

同性にこんな感情を抱いたことなんて今までなかった。

 

中学高校と女子校だったので、似たようなことはちらほら見かけた。

私自身、外見や仕草が男っぽいせいか

同級生や後輩の女の子に告白されたことも何度かある。

でも、その子たちが純粋なビアンだったとは思えない。

彼女たちは私を“男”に置き換えて見ていただけだからだ。

 

そういうのが本当に気持ち悪かった。

生物学的に女である私を都合よく男に脳内変換して、

いったい何を妄想してるんだろうと思うと鳥肌が立った。

女子高で欲求不満なのは分かるけど、

勝手に彼氏役を押し付けられるのは御免だ。

 

 

そういえば3年くらい前だったか、

何度か自宅に変な手紙が届いたことがある。

女の子特有の丸みがかった字で

『好きです』 とか 『いつも電車で見てます』 とか書いてあって、

めちゃくちゃ怖かった。

手紙には消印がなかったから、

直接うちのポストに入れに来たんだろう。

ストーカーかよ。 今でも寒気がする。

電車で見てるだけなのに、なんでうちの住所知ってんだよ。

 

しばらくして、駅のホームで知らない女の子に告白されたんだっけ。

「今までおうちに手紙送ってたんですけど、

 やっぱり直接渡そうと思って」

うわーお前だったのかよ、ていうか誰だよお前、とか思って、

薄気味悪くなると同時に、ものすごく腹が立った。

 

「そういうの、もううんざりなんだよ」 「気持ち悪」

「ほんと勘弁」 「2度と近づかないで」

そんな感じのことを言って断った覚えがある。

今思うと、結構ひどいな自分。

さすがにちょっと言い過ぎたよな。

 

「手紙だけでも読んで下さい」 って言われて

一応受け取ったんだけど、

そのときは相当イライラしてたから、

あとで駅のゴミ箱に捨てといた。

 

 

今の自分は、あの時の女の子と同じ立場だ。

って、やっぱり私さゆみちゃんのこと恋愛感情で好きなのかな。

よく分かんないけど。

 

もし私がさゆみちゃんに告白して、

「気持ち悪い」 とか 「2度と近づくな」 とか言われたらどうしよう。

‥‥うわお、きついわ、これ。 生きていられる自信がない。

 

あの女の子、すごく傷ついただろうな。

今さらながらごめんよ。

私も同じように女の子を好きになって、

あんたの気持ちがよく分かったよ。

手紙くらい読んであげればよかった。

 

 

「あーでもぉ、実はさゆみ音痴なんですよー。

 引かないで下さいね」

「いや大丈夫、あたしもへたくそだし!

 っていうかさゆみちゃんは声が可愛いから音痴でも

 全然いいと思う!」

「うふふ、うれしーい。 でもさゆみちゃんじゃなくて、

 さゆって呼んでほしいな」

「いきなりは難しいよ」

 

「うーん、じゃあ練習しましょう練習。

 私のほう見て、さゆって言ってみて下さい」

「‥‥‥さゆ」

「はい、じゃあ次は3回続けて」

「さゆさゆさゆっ、さゆっ」

「あはは、やっだぁー照れちゃ〜う。 しかも1回多いー」

「ふ、ふへっ、ぐひひひひ」

 

‥‥だめだ、我ながら本気でキモい。

なんで私はさゆの前だとこんなにキモい人になっちゃうんだろう。

あ! 今さゆって言っちゃった! 心の中で!

調子乗っちゃった! ごめんなさい!

もおおおおおなんかもうだめ、恥ずかしい。 消えたい。

 

 

結局カラオケには明日行くことになった。

あー、すげー緊張する。 絵里も一緒だから3人だけど。

お風呂で歌の練習しとかなきゃ。

明日はさゆみちゃん、いや、さゆのスウィートヴォイスを

心ゆくまで堪能してこようと思う。