★★★

 

 

 

どーもこんにちは、絵里でぇす。

あ、せっかくなんで簡単に自己紹介しますね。

東京生まれの東京育ち、山羊座AB型の19歳、

趣味は四字熟語で特技は一輪車です。

 

家族構成はー、いわゆる核家族ってやつですね、

現代社会の主流です。

ふつうに父と母、あと姉がいました。

あ、なんで過去形かってゆーとぉ、お姉ちゃんはこの前

殺されちゃったからです。

 

ていうかお姉ちゃん殺したのって、絵里の友達なんですよねー。

さゆみっていう1つ年下の女の子で。

ま、友達って言えるのかどうか微妙ですけどね。

 

実は絵里、さゆのことずっと前から知ってたんですよ。

だからさゆが絵里のバイト先に来た時は、マジちょー焦りました。

結果的には、あっちから近づいてきてくれるなんてラッキー

って感じでしたけど。

 

 

さゆには、梨華って名前のお姉ちゃんがいました。

見るからに女の子って感じで、か弱そうで、ピンクが大好きで、

ブリッコで音痴なところまで、さゆにそっくりでした。

 

‥‥って、なんで絵里がそんなことまで知ってるのかって?

うへへへへ。

無駄にじらすのも趣味じゃないんで、ヒントあげましょうか。

 

梨華とさゆみ、ひとみと絵里。

つまりは2組の姉妹がいたわけで。

色白で派手な顔立ちの、『ひとみ』 と 『さゆみ』。

色黒で幸の薄そうな地味顔の、『梨華』 と 『絵里』。

 

あれー? あれあれー?

この容姿や名前の共通点は、果たして偶然でしょうか?

 

えへっ。

ヒントのつもりだったんですけど、

これじゃ答え言っちゃったようなもんですね。

 

 

# # #

 

 

  12月7日

今日は女子高の時の先輩、石川さんと会ってきた。

娘たち2人だけで留守番させるわけにはいかないので、

一緒に公園に連れて行く。

石川さんも、娘を2人連れてきていた。

1年生の梨華ちゃんと、今月で3歳になる絵里ちゃん。

子供たち4人はすぐに仲良くなって、

砂場や滑り台で一緒に遊んでいた。

公園のベンチで石川さんと4時間話し込んだ。

母親どうし話も盛り上がって、楽しかった。

高校時代に戻ったような気分だ。

 

  12月8日

今日も石川さんと会ってきた。

娘たちの世話を夫に頼んだら、夫はあからさまに

面倒くさそうな顔をしていた。

日曜だろ。 お前の脳内には家族サービスの欠片もないのか。

石川さんと1日中、家族のことを愚痴り合った。

 

  12月9日

今日は家事を早めに切り上げて、昼間に石川さんと会った。

彼女はためらいがちに言った。

「長女は可愛いんだけど、次女のことを可愛いと思えない」

同じだ。 私と全く同じ。

私は夢中になって、自分の今の心境を事細かに話した。

次女なんかいらない。 私には、長女がいればいい。

 

  12月10日

私はさゆみを愛せない。

石川さんは絵里ちゃんを愛せない。

それならこの際、次女同士をとっかえっこしちゃえばいい。

なんてね。

 

  12月11日

また石川さんに会った。

私が冗談めかして言った突拍子もない提案に、

彼女は本気で乗ってきた。

 

  12月12日

そうだ、絶対にそのほうがいい。

どうせこの先も次女を愛せないなら、同じ状況の家の子と

取り替えてしまえばいい。

自分の娘より、友達の娘のほうが愛せるかもしれない。

そのほうが、彼女たちにとっても幸せなはずだ。

幸い、子供たちはまだ幼い。 記憶などいくらでも塗り替えられる。

夫さえ説き伏せれば‥‥

 

 

# # #

 

 

絵里がお母さんの日記を見つけたのは、中3の2学期頃でした。

あ、正確には “お母さんだと思っていた人” ですね。

 

えーと、話せば長くなるんですけど。

絵里もいわゆる思春期で、男の子と同じように

エッチなことに興味津々だったんです。

で、友達とレディコミとか回し読みしたりするじゃないですか。

自分のとこに回ってくると、

家に帰ってから夢中になって読み漁ってました。

 

そうなると困るのが隠し場所です。

家の中でレディコミを隠せるような良い場所を探しまくりました。

で、色んな引き出しとか棚とかひっかき回してたら、

偶然あの日記を見つけちゃったんです。

 

 

そりゃあショックでしたよ。

今まで家族として一緒に暮らしてきたのに、

絵里だけ余所の家の子だったなんて。

大好きなお父さんもお母さんもお姉ちゃんも、誰1人、

本当の家族じゃなかったなんて。

 

まぁそんな感じで最初は悲しかったんですけどね。

ほら、絵里ってわりと楽観的な性格なんで。

血なんか繋がってなくても、

今が幸せならいいかなって思えるようになりました。

 

その代わり、本当のお姉ちゃんってどんな人だろう

って好奇心が湧いてきちゃいまして。

色々調べたんですよ。 『石川さん』 について。

 

 

学校が終わったあと、絵里は石川家の前でよく張り込んでました。

 

あー、あれが絵里の本当のお父さんとお母さんなんだ。

あれが本当の 『吉澤家の次女』 なんだ。

色白でほくろが多くて、

なんとなくお姉ちゃん(だと思ってた人)に似てるかもな。

で、あれが絵里の本当のお姉ちゃんか。

色黒で実は根暗そうな所が絵里そっくりだなぁ。

 

なんて思いながら、1人1人を観察してました。

そしたら、ある日ついに見つかっちゃったんです。

本当のお姉ちゃん、梨華さんに。

 

「あなた誰? 毎日ここに来て私の家見てるでしょ。

 やめないと警察に通報するよ」

 

絵里は慌てて、思わず言っちゃいました。

「ち、違うんです、ただ、本当の家族がどんな人たちなのか

 見てみたくて」

 

梨華さんはぽかんと口を開けて、小さく呟きました。

「もしかして、絵里‥‥?」

 

 

梨華さんは何もかも覚えてました。

 

『絵里のことは忘れるのよ、今日からあなたの妹はさゆみだからね』

当時、親たちから暗示のように毎日言われていたそうです。

でも、梨華さんは絵里を忘れたりしなかった。

 

嬉しかったけど、ちょっとだけ心配になりました。

梨華さんが覚えてるってことは、

うちのひとみ姉ちゃんも覚えてるかもしれない。

 

絵里はうちに帰って、お姉ちゃんにカマをかけてみたんです。

でも、お姉ちゃんは本当に何も覚えてないみたいでした。

変なとこで素直な人だから、

両親の暗示にも簡単にかかっちゃったのかもしれません。

 

 

絵里は、ときどき梨華姉ちゃんと遊ぶようになりました。

もちろん家族には秘密です。

梨華姉ちゃんも、このことは誰にも言ってないみたいでした。

自分たちが会っていることが家族に知られたら、

色々めんどくさいことになるだろうってお互い分かってましたから。

 

梨華姉ちゃんは、真面目で石頭で世間知らずな人でした。

大学生にもなって、カラオケも行ったことがないって言うんです。

びっくりしません?

いまどきそんな人いるんだーって呆れちゃいましたよ。

 

絵里は梨華姉ちゃんを連れて、色んな所に遊びに行きました。

毎日すっごく楽しかったです。

一緒にいればいるほど、絵里は梨華姉ちゃんのことが

大好きになっていきました。

美人で優しくて、いつも真面目で一生懸命で、

本当に素敵な人だったんです。

 

 

恋バナもしましたよ。

どうやら梨華姉ちゃんは、よく電車で見かける人に恋してるみたいで。

絵里、どんな人なのか知りたくなったんで、ついて行ったんです。

梨華姉ちゃんが赤面しながら 「あの人」 と指差したのは、

なんとひとみ姉ちゃんでした。

 

恋した相手が女の人で、しかも絵里のお姉ちゃん(仮)だったなんて。

絵里は興奮して、

梨華姉ちゃんの恋を全力で応援しようと心に誓いました。

‥‥って言っても絵里ができるのは、

梨華姉ちゃんが書いた手紙をうちのポストに入れることくらい。

 

 

絵里が高校に入学した頃だったかな。

なんかひとみ姉ちゃんもちょっと気味悪がってるみたいだし、

もう直接告白しちゃえば?って梨華姉ちゃんに言ってみたんです。

 

梨華姉ちゃんも納得して、じゃあ今度頑張って告白する、って。

その代わり絵里も近くで見守っててほしい、って。

 

 

だから、絵里は全部見てました。

勇気を振りしぼって顔を真っ赤にしながら想いを告白した

梨華姉ちゃんのことも、

それを冷たくはねつけたひとみ姉ちゃんのことも。

 

 

2日後、梨華姉ちゃんは電車に飛び込んで自殺しました。

 

絵里、しばらく放心状態でしたよ。

涙も出なかった。

何が起こったのか理解できませんでした。

 

ひとみ姉ちゃんは、

なんで梨華姉ちゃんにあんなひどいことを言ったんだろう。

梨華姉ちゃんは、なんで絵里に何も言わずに死んじゃったんだろう。

 

そもそも絵里たちがとっかえっこされなければ、

姉妹として梨華姉ちゃんとずっと一緒にいられたはずなのに。

絵里がひとみ姉ちゃんと “姉妹” だったせいで、

梨華姉ちゃんの恋に半端な協力をして

そのせいで梨華姉ちゃんは傷つけられて自殺しちゃった。

 

悪いのは、直接的に傷つけたひとみ姉ちゃんか。

それとも、誤解を生むような余計なことをしてしまった絵里なのか。

いや、親が絵里たちを取り替えなければ、こんなことには

ならなかったかもしれない。

 

この気持ちを誰にぶつければいいのかも分かりませんでした。

悲しみとか怒りとか悔しさとか、

色んな感情が頭の中をぐるぐる回ってるだけで。

 

 

何もかもやるせない気持ちのまま、絵里はうちに帰りました。

その時は、誰かを責める気なんてなかった。

 

絵里の好きなハンバーグの匂いがしました。

「ただいま」 って言ったら、キッチンから 「おかえり」 って声がして。

その日はひとみ姉ちゃんがいつもより早く帰ってて、

夕食を作ってたんです。

 

絵里は泣きそうになりながら、なんとなく呟きました。

「あのね、昨日、近くの駅で女の人が飛び込み自殺したんだって」

 

お姉ちゃんは怪訝そうな顔をして、呆れたように言いました。

 

「飛び込み自殺って1番迷惑かかる死に方なんだよ。

 電車止まっちゃうから。 遺族が鉄道会社に、賠償金とか何千万も

 払わなきゃいけないんだって。 他人に迷惑かけまくって、

 家族を悲しませた上に金まで払わせるなんてさ、最悪に親不孝な

 死に方だよ。 その人、親に恨みでもあったのかもね」

 

 

きっかけなんて、たいしたことじゃないんです。

明確な理由なんてない。

お姉ちゃんが言った言葉に悪意があったとも思えません。

 

でも、なぜかその瞬間。

今まで絵里の中にあったもやもやしたものが、

はっきりとした形になりました。

全てのベクトルが揃っちゃったんです。

いちばん手近で単純な方向に。

 

許せない。 全部こいつが悪いんだ。

絵里の大好きな梨華姉ちゃんを傷つけたこいつが憎い。

 

行き場のない怒りとかやるせなさは、

全て、ひとみ姉ちゃんへの憎しみに変わりました。

 

 

バイト先で初めてさゆと喋った時、

ひとみさんに会いたいって何度も言われて

絵里は確信したんです。

さゆは梨華姉ちゃんの自殺の理由を知っている。

だけど、自分たちが取り替えられたことはまだ知らない。

 

激しく憎悪に燃えるさゆの瞳を見て、絵里はにんまりしました。

面白そう。 こいつ使える。

 

 

ま、あとはご想像の通りです。

 

絵里はさゆを利用しました。

‥‥あ、利用したって言うと語弊がありますね。

だって全部さゆが勝手にやったことですし。

 

まぁ、色々と運が良かったんですよ。

絵里自身はまったく手を下さずに、ひとみ姉ちゃんに復讐

することができたんです。

 

さゆもバカですよねー。

何にも知らずに実のお姉ちゃんを殺しちゃったんだから。

あはは、マジ笑える。

実の妹に恋しちゃったひとみ姉ちゃんのほうがもっとバカですけどね。

 

血の繋がりを知らないまま育った兄弟姉妹が出逢うと、

お互い強く魅かれ合うんだとか。

 

‥‥あ、もしかしたら、ですけど。

さゆもひとみ姉ちゃんに、憎しみ以外の特別な感情が

あったのかもしれません。

そうだとしたらもっと面白いですね。 うひひ。

 

 

そうそう、絵里、現場行ったんですよ。

あの日さゆの家に行ったら、お姉ちゃんが倒れてたんです。

 

行ったのはまったくの偶然ですよ、偶然。

この前借りたCD返しに行かなきゃ、とかそんな理由です。

虫の知らせってやつですかね。

 

 

絵里が行った時、お姉ちゃんはすでに冷たくなってました。

半分裸みたいな格好だったし、部屋の中もびみょーに生臭いし、

何が起こったのかなんとなく分かりました。

 

ああ、ひとみ姉ちゃんは苦しんで死んだんだ。

さゆが殺してくれたんだ。

‥‥全部、絵里の望み通り。

絵里はにやにやが止まりませんでした。

 

 

さゆは床にぺたんと座り込んで、

放心状態でお姉ちゃんを見つめていました。

 

絵里はさゆに近づいて、こっそり耳打ちしてあげたんです。

さゆの本当のお姉ちゃんは梨華さんじゃなくて

ひとみさんだったんだよ、って。

ちゃんと聞こえてたのかどうか分かりませんけどね。

 

 

そのままにしておくのもアレなんで、絵里が110番してあげました。

警察って電話したらほんとに来るんですね。

ドラマみたいで興奮しましたよ。

現行犯逮捕とか初めて見ちゃったー。

 

 

あ、さっきからお母さんが呼んでるんで、絵里もう行きますね。

 

今日、ひとみ姉ちゃんのお葬式なんです。

うへへ、大丈夫ですよ。 絵里、嘘泣きは得意なんで。

 

火葬されるとき、棺にお母さんの日記を入れてあげようと思います。

我ながらナイスアイディア。

あの世で読んだら、お姉ちゃんびっくりするだろうな。

 

 

じゃ、行ってきますね。

つまんない長話しちゃってすみませんでした。

 

梨華姉ちゃんが天国でひとみ姉ちゃんと結ばれますよーに。

なんつって。

 

 

 

 

 

 

 

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    ||□|      || ||\\  ∞ノハヽ    。 ゜ o   ;'⌒ヽ

    ||□|  ...゙゙   || ||  \\ノノ*^ー^).y== o O 。    ヽ__ノ  O        飛ばずに 消えた

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