みなみちゃんの恋人

 

 

 

 

 

吉澤ひとみは呆然としていました。

今日は音楽ガッタスのコンサートのリハーサル。

たった今、自分は忘れ物を取りに楽屋‥‥に入ったはずです。

 

 

       ノノハヽ ?

      (0´〜`)

      (つ⊂ニ.)

       | _ |

       U し'

 

 

確かに楽屋のような雰囲気は感じますが、何かが違う。

ひとみはおそるおそる自分の体を見下ろします。

(なんであたし裸なんだろう‥‥)

 

 

       ノハヽヽ ?

     ? (;´〜`;0)

         ヽニつ/ )

          | _(..イ

          U し'

 

 

それだけではありません。

床に寝転んでいるわけではないのに、

なぜかテーブルや椅子の裏側が見えます。

まるで下から覗き込んでいるような。

 

それに、さっきから妙に足元が不安定です。

よく見ると、ひとみはガサガサした大きな布切れの上に

乗っているようでした。

いつもの何十倍も広く見える楽屋、そびえ立つテーブルの脚。

 

 

     \ | /

     ― (m) ─

       目

           ピコーン!

       ノハヽヽ

     Σ (゜〜゜0)

       ∪ ∪ )

        U⌒U

 

 

ひとみはようやく理解しました。

なんと彼女の体はリカちゃん人形ほどの大きさに

縮んでしまっていたのです。

足元の布は、今まで自分が着ていた衣装でした。

 

「何これ! な、なんでなんで? うそうそうそ!」

突然の信じられない出来事に、ひとみはひどく狼狽しました。

 

「どうしよう、これからリハなのに!」

すっぽんぽんなことも忘れて、

オロオロしながら楽屋の中を駆け回ります。

と言っても、半径30センチ以内をうろちょろしているだけでしたが。

 

(とりあえず楽屋から出てみよう!)

出入り口はドア1つだけです。

しかし、さっき自分で閉めたらしいそのドアは、

現在身長16.4センチのひとみには到底

開けられそうにありません。

ドアノブに手が届かないのです。

 

助走をつけて、ドアに思いっきり体当たりしました。

バイーン。

ひとみはあえなく吹っ飛ばされました。

当然です。

今のひとみは身長が10分の1ですから、体重は1000分の1、

つまり50グラム弱しかないのです。

 

しかし、ここで諦めたくはありません。

無理だとは分かっていますが、

一応、渾身の力を込めてドアを押してみます。

「ぬーん! ぬーん!」

無理でした。

 

「どうしようどうしようどうしよう」

なす術のないひとみは、

ただドア周辺をちょこまかと右往左往するばかりです。

 

 

      ノハヽヽ         ノノハヽ

     (´〜`;0)  = ≡ =  (0;´〜`)

    ⊂(   つ  = ≡ =  ⊂   )つ

.     ミ三三彡  = ≡ =  ミ三三彡

 

 

その時です。

ドォォォン! ドォォォン! ドォォォン!

突然ものすごい地響きがして、ひとみはひっくり返りました。

 

 

        ノハヽヽ

      ヽ(`〜´0)/  ステーン

      \( \ ノ

    ☆    ̄

 

 

タッタッタッタッ。

ひとみが地響きだと感じたのは、誰かの足音のようです。

足音は楽屋のほうへ向かってきています。

(やばい!)

ひとみは慌てて、床に落ちている自分の衣装の中に隠れました。

 

 

         ノノハヽ

         (0´〜`):::ヽ、_

         / つ( ̄`O、__,:'⌒ヽ ))

      ノ::: し―-)        \ ))

     (::: :: :::: :::ヽ :::    ノ::::  )

      ⌒\:: ::::ノ         ,:'  バサッ

         ヽ(___,,.;:-−''"´``'ー'

 

 

 

           /⌒⌒::⌒ヽ

         ノハヽヽ  ::  :::::)

        (´〜`0)___::::)

 

 

バンッ。

ひとみが全力で押してもびくともしなかったドアが、

こともなげに開けられました。

 

現れたのは、ハロプロエッグ期待のおっぱいちゃん仙石みなみ。

音楽ガッタスの一員として活動し始めて以来、

人気、実力ともにめきめきと上がっている17歳の女の子です。

 

「あれ? いないなぁ。 トイレかなぁ」

みなみは楽屋の中をきょろきょろと見回しました。

なかなか帰ってこない吉澤さんを心配して探しに来たようです。

いや正確に言えば、とある絡みづらい先輩に

( ^▽^)<ちょっとあんた、よっすぃ〜呼びに行ってきなさいよ

と命じられた上での行動ですが。

 

「ん?」

みなみは、足元に無造作に脱ぎ捨てられた衣装に気づきました。

「もしかしてこれ、吉澤さんの‥‥?」

みなみが衣装に手を伸ばします。

(ちょちょちょちょ、ままま待って待って)

その衣装にくるまっているひとみは気が気ではありません。

 

案の定、みなみがそれを拾い上げた瞬間、

ひとみは衣装の中から滑り落ちました。

 

 

         | |

 

         || |

 

        ノハヽヽ  ギャース!

      ヽ(`〜´0)/

      \( \ ノ  ★

          ̄  ☆

 

 

ひとみは腰を床にしこたま打ちつけました。

(いててて‥‥)

幸い、早い段階で落ちたので大事には至らずに済んだようです。

 

(え? なんか今、変な声がしたような‥‥気のせいかな)

みなみは怪訝な表情で辺りを見回していました。

そう、ひとみの悲鳴は気のせいと思われてしまうほど

小さかったのです。

今は肺も声帯も何もかもミニサイズですから。

 

と、その時。

みなみが足元に落ちているひとみに気づきました。

「あれ? 人形だ」

みなみがひとみを拾い上げました。

(うわーーー!)

ひとみは焦りましたが、一瞬のうちに考えをめぐらせます。

 

仙石は私を人形だと思っているようだ。

もし人形じゃないと気づいたら、

びっくりして私を床に落としてしまうかもしれない。

こんな高い所から落とされたら明らかに即死だ!

それだけは避けたい!!!

 

ひとみは人形のふりをすることにしました。

目を見開いてまばたきを我慢し、手足を硬直させます。

 

 

  (⌒ヽ⌒ヽ、    ( ⌒ ` ヽ、

   \:: \_`ー---ノノハヽ::: \

   (⌒ヽ、::::;;;; ̄''' (0;`〜´):::  ``ー――

    (⌒ヽ`ー-- ⊂ . .⊃::   :: :.:: :.:

     \::`::ー―  |  x |::

       `ー--....,,,,_U⌒U:::  __,,,,,,,,.......

              ̄ ̄ ̄ ̄

             ピーン

 

 

みなみは、手のひらの上のひとみをまじまじと見つめていました。

(すごーい。 この人形、吉澤さんにそっくり)

今さらながら、ひとみは自分の裸体を大公開していることに

気づきましたが、みなみをびっくりさせるわけにはいきません。

体が動かないようにじっと耐えます。

 

(最近のフィギュアってこんな精巧に作れるのかー)

みなみは感心しました。

1つ1つのパーツはもちろん、髪や肌の質感まで本物そっくりです。

本物なので当たり前ですが。

 

みなみは何気なく、親指でひとみの胸をぷりぷりと触りました。

(うわ、おっぱいまで柔らかい‥‥)

「ひゃん」

ひとみがたまらず声を漏らしました。

 

 

 

Å Å Å

 

 

 

「じゃあ、本当に吉澤さんなんですね?」

みなみは信じられないといった表情で、手のひらの上の

ひとみに確認しました。

「ほんとだよ! ほら、動いてるし喋ってるし!」

ひとみは必死で手足をじたばた動かしてアピールします。

 

「とりあえず、少しの間あたしを保護しといてほしいんだ」

「保護、ですか?」

「だって危ないじゃん。 こんな床に転がってたら、

 いつ踏み殺されるか分かんないもん。

 つーか誰かに発見されたら絶対イタズラされそうだし、

 病院とか保健所とか、どこかの変な研究所に

 連れていかれちゃうかもしれないし」

「えー、でもぉー」

「お願い! 体が元に戻るまで匿ってくれ!」

 

ひとみは、みなみの手のひらに頭をこすりつけて懇願しています。

いくらミニサイズとはいえ、先輩に土下座されて、

みなみは慌てました。

「あわわわ‥‥吉澤さんやめて下さい、頭を上げて下さい」

 

 

      ノハヽヽ

     (´〜`0)、

       ノノ Z乙

 

 

ひとみがおそるおそる顔を上げると、

みなみはにっこり微笑んで言いました。

「分かりました。 今日から私が吉澤さんを守ります」

ひとみはちょっぴりキュンとしました。

 

その時です。

「ちょっとぉー仙石ちゃーん? 遅くなーい?」

突然かん高い声がして、みなみは飛び上がりました。

 

楽屋のドアを開けたのは石川梨華です。

みなみは、ひとみをぱっと後ろ手に隠しました。

 

「よっすぃ〜は?」

「いえ‥‥なんか見つからなくて」

「あ、そう。 じゃあもうほっといていいよ。

 リハ始まるから戻っておいで」

「でも、あの‥‥」

「いいから。 あと10秒以内に来ないとシメるよぉ」

 

梨華はそう言って、

いそいそとステージのほうへ戻っていきました

(石川さんにボコられる!)

みなみは身震いして、慌てて梨華の後を追いかけます。

手にはひとみを持ったままです。

 

「ま、待って仙石、あたし‥‥」

「吉澤さん、ちょっとここで我慢してて下さい」

 

みなみは走りながら小声でそう言うと、

自分の胸の谷間にひとみの体を押し込みました。

 

 

           ムギュ

       ノノハヽ

     \0`〜´∩::::::/

      ::\   ノ::/ ::

        ::ヽノ::/  ::

         :::Y   :::               /

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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

仕方ありません。

ひとみを隠せる場所はそこしかないのです。

コンサート用の衣装には、ポケットなんて付いていませんから。

 

 

 

Å Å Å

 

 

 

2時間にわたるリハーサルを終えて、

みなみはトイレに直行しました。

誰もいないことを確認し、個室に入って鍵を閉めます。

みなみは胸の谷間から、ひとみの体をそっと抜き出しました。

 

「吉澤さん吉澤さん、リハ終わりましたよ」

「‥‥‥」

返事がありません。

 

「‥‥吉澤さん?」

 

―――ひとみは、乳で全身を圧迫されたことによって

窒息死していました。

安らかに眠るその顔は、とても幸せそうに見えました。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

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