懇親会

 

 

 

 

 

所用で事務所に行ったら、別の仕事で来ていたらしい

モーニング娘。のメンバーたちに遭遇した。

 

「あっ、中澤さんこんにちは! お疲れさまです!」

「お疲れさまでーす」

「お疲れさまです」

「お疲れさ(ry

「おつ(ry

 

ドミノ倒しのように重なり合う若々しい声。

私は微笑みを浮かべて、

その1つ1つの声に頷きながらすれ違っていく。

 

「お疲れ(ry

「おつ(ry

「お(ry

「お疲れさまです。 今夜楽しみですねぇ」

 

‥‥へ?

思わず振り向くと、光井愛佳がにこやかに

通り過ぎていくところだった。

 

「ちょ、ちょっと待った! 何が?」

「え?」

「今夜って何のこと?」

「えー、中澤さん聞いてへんのですか?

 懇親会ですよ、懇親会」

  

そんなこと初耳だ。

懇親会をするのにこの私を誘わないなんて、大した根性である。

私はなるべく不機嫌さを顔に出さないよう努力しながら、

引きつった笑顔で光井に迫った。

 

「メンツは誰やの」

「えーと、松浦さん、美勇伝の岡田さん、

 あと加護さんも来るらしいですよ」

「何やて!? 加護も?」

「多分ハロプロの関西出身組が集まるんだと思います。

 だから中澤さんも当然行くはずやと思ってたんですけど」

 

なんということだ。

関西といえば中澤、中澤といえば関西。

関西出身組の筆頭は、どう考えてもこの中澤裕子ではないか。

 

「‥‥あれ? そういえばアヤカは呼ばれてへんの?」

確かあの子も兵庫県出身だったはず。

もうハロプロのメンバーではないが、それは加護だって同じことだ。

 

「アヤカさんは今イギリスじゃないですかね」

「なんで?」

「旦那さんの全英オープンツアーで」

「あぁ、そうか」

 

 

そう、アヤカは結婚したのだ。

それも有名なトッププロゴルファーと。

 

彼女は貿易商の富豪の令嬢として生まれ、ハワイで育ち、

上智大学に通い、たとえアイドルとしての仕事がなくても

優雅に暮らしてきた。

そして選んだ男まで超一流ときたもんだ。

アヤカはどこまでも勝ち組の人生を歩む運命なのだ。

 

それに比べて私はどうだろう。

くだらないバラエティ番組のにぎやかし役を演じながら、

35歳になった今でもアイドルと名乗って

細々と芸能活動を続けている。

おばちゃんと呼ばれ続けて10年、未だに結婚する予定はない。

私はいつになったら女としての幸せを手に入れることができるのか。

 

 

「‥‥どうしたんですか、中澤さん」

 

光井が心配そうに私の顔を覗き込んだ。

小動物のような黒目がちの瞳に吸い込まれそうになる。

なんという無邪気な輝きだろう。

私にはもう、この子のような若さも純粋さもない。

 

「いや、何でもない。 教えてくれてありがとうな」

「いいえー。 じゃあまた今夜、よろしくお願いします」

 

 

光井と別れて、用事を済まし、私は事務所を出た。

 

それにしても、なぜ私だけが呼ばれなかったのだろう。

単に忘れられていたのか?

いや、いくら絡みがないとはいえ、ハロープロジェクトのドンと

呼ばれる私の存在を忘れるはずがない。

 

やはり私は後輩から疎まれているのだろうか。

最近は下の子たちにも優しく接するように心がけているのだが。

 

 

ふと気づいた。

―――私だけではない。

稲葉のあっちゃん(大阪府出身)も呼ばれていない。

なぜ? 三十路だから?

 

それに、もうハロプロを辞めた加護が呼ばれているなら、

みっちゃん(三重県出身)だって呼ばれてもいいのではないか。

あんなにええ子やったのに、なんでハブられたんやろ。

やっぱ三十路だから?

あれ? みっちゃんて今いくつやったっけ。

 

あっちゃん、みっちゃん、そして私。

確かに、話の合わない先輩なんか呼んでも気を遣うだけだ。

どうせ懇親会をするなら、

若い子だけで伸び伸び楽しみたいのだろう。

 

 

私は決意した。

 

こうなったら、あえて堂々と行ったるわい。

そして気まずさと後悔と恐怖を骨の髄まで味わうがいい。

先輩を無下にした罰や。

 

 

 

 

開始時間から少し遅れて、

私は光井に教えてもらった小さな店の前に着いた。

店の中からは、きゃらきゃらと笑う若い女たちの声が聞こえる。

 

笑っていられるのも今のうちやで。

あと数秒で、お前らは驚愕し恐怖のどん底に突き落とされるんや。

 

私は深呼吸をして、ドアを開けた。

 

 

「あれっ? 中澤さんだ。 どうしたんですか?」

松浦が目を丸くして私を見た。

彼女の表情からは、気まずさなど微塵も感じられない。

 

「中澤さん! ご無沙汰してます!

 えーと、その節は大変ご迷惑をおかけしました」

加護が、加護とは思えない馬鹿丁寧な社交辞令を述べた。

つまらん大人になったな、あいぼん。

 

「おかしいなぁ。 中澤さんは呼んでへんのやけどなぁ」

本人が目の前にいるというのに、

岡田は相変わらず失礼な奴である。

あとでシメるか。

 

 

「中澤さん、失礼なこと伺って申し訳ないですけど、

 誰に呼ばれたんですか?」

松浦が、あまり申し訳なくなさそうな口調で言った。

 

「うちやないでぇ」

岡田がのんびり答えた。

 

「私も‥‥中澤さんの連絡先知らないし」

加護も言った。

 

「えっと、中澤さんに今日のこと教えたのは私ですけど‥‥

 もしかして何か悪いことしましたか?」

光井が気まずそうに言った。

 

 

「何や、人を爪弾き者みたいに。

 なんで関西出身の懇親会にうちを呼ばへんねん」

私は思わず声を荒げる。

 

 

少し沈黙があって、松浦が立ち上がった。

 

「‥‥あのですね」

「何や」

「今日の懇親会の参加条件は、“関西出身”じゃないんです」

「は? じゃあ何なん?」

 

松浦は言いにくそうに目をそらした。

 

「おっぱいです」

 

 

 

 

 

 

 

  ノノハヽ

  川 ´・`)

  ∪、__)、_)

    ゚  ゚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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