茉麻の玉手箱

 

 

 

 

 

海辺の村に、茉麻という名の女の子が住んでいました。
茉麻は体が大きく、力も強く、たいへん心優しい女の子でした。

ある日、茉麻が浜辺を歩いていると、

数人の子供たちが何かを取り囲んで騒いでいるのが目に入りました。
近所でも性悪と評判の小春ちゃんと、

その取り巻きの千奈美ちゃんと雅ちゃんです。

「みんなー、何してるのー? わたしも仲間に入れてよぉ」
そう言って茉麻がドスドス駆け寄っていくと、小春ちゃんたちは、
「わー、怪力まあさが来たぞー」
「うどのたいぼくー」
「でくのぼぉー」
と言いながら、散り散りになって逃げて行きました。

 

 

さっきまで3人が集まっていた場所には、

傷だらけの亀が丸くなっていました。
茉麻が甲羅をつんつん突つくと、亀はその甲羅から

頭と手足をぴょこっと出しました。

「わっ、生きてた」
「うへへ、こりゃまた大きなお嬢さんで。

 ありがとうございます、助かりました」
「え? 何のことですか?」
「実はわたくし、さっきの糞ガキどもにちょっかい出されてまして。

 そこをあなたが助けて下さったんです、うへへへへ」
「はぁ、そうなんですか」

「お礼と言ってはなんですが、あなたを竜宮城へご招待いたしましょう」
「え、ほんとに?」
「どうしてこの亀が嘘を申し上げましょうか、いや、そんなはずはない。

 なんつって。 うへへ、反語ですよ反語。 さぁ、私の背中に乗って下さい」

茉麻は展開の速さにどきどきしながら、

言われた通り、亀の背中に飛び乗りました。

「ぐえっ! お、重‥‥いや、なかなか発育の良い娘さんですね」
「よく言われます」

 

 

茉麻を乗せた亀は海の中へと潜り、ひぃひぃ言いながら泳いでいきます。
茉麻は亀の甲羅にしがみつき、

ぎゅっと目を瞑って鼻をつまんでいましたが、

2分ほど経つと息が苦しくなり始めました。

「ぐぼ、ぐぼぼぼ」
「お嬢さん、普通に息をしても大丈夫ですよ」
「へ? ‥‥あ、ほんとだ。 海の中なのに、どうして?」
「さぁ、どうしてでしょうね。 私にもさっぱり」

 

 

 

○ O o 。○ O o 。

 

 

 

竜宮城に着くと、茉麻は丁重に歓迎されました。
きらびやかな衣装を纏った美女たちが歌いながら舞い踊り、

最高級のマグロの刺身と鯛料理が、茉麻の大容量の腹を満たします。
手厚くもてなされて、茉麻はたいへん満足しました。

中でも1番派手な衣装を着た小さな女性が、茉麻に話しかけてきました。

「やぐやぐまりー、きゃはははは」
「うちの亀を助けてくれてありがとう、とヤグ姫様はおっしゃっています」

さっきの亀が、ヤグ姫の言葉の通訳をしてくれました。

「やぐやぐ、すごいすごーいきゃはははは」
ヤグ姫はそう言って、真っ白な箱を取り出し、茉麻に手渡しました。
「この箱をあなたに授けますが、決して開けてはなりません、

 とおっしゃっています」
亀が訳しました。

開けられない箱なんか貰ったって意味ないよ、

と茉麻は心の中で憤慨しましたが、

建前上、喜んだふりをしてそれを受け取りました。

 

 

そういえば、どれくらいの時間が経ったのでしょうか。
そろそろ帰らなければなりません。
帰りが遅くなると、お母さんに叱られてしまいます。
茉麻は遠慮がちに立ち上がって言いました。

「えっと、あんまり長居するのも悪いんで、私そろそろ帰ります」
「やぐぅ‥‥」
「残念だ、とヤグ姫様はおっしゃっています」
亀が訳しました。

茉麻はヤグ姫や竜宮城の人たちにお礼を言って、

また亀の背中に乗り陸へと帰って行きました。

 

 

 

○ O o 。○ O o 。

 

 

 

「さて、この箱どうしようかな」

陸に上がった茉麻は、白い箱を目の前にして考え込んでいました。
正直言ってこんな面倒くさいものは要らないのですが、

せっかく貰ったものを捨てるわけにもいきません。

ここに帰ってくる途中、あの亀が言っていたことを思い出しました。

 


  「いいこと教えてあげますね。 ここだけの話、その箱って

   開けるとおばあちゃんになっちゃうんですよ、うへへ」
  「えっ、そうなの?」
  「そーそー。 ま、開けなきゃいいだけなんですけど」
  「ヤグ姫様はどうしてそんな危険なものを私にくれたんですか?」
  「さぁ、どうしてでしょうね。 私にはさっぱり」

 

 

そっか、開けなきゃいいだけの話なんだ。

茉麻はとりあえず箱を叩いてみました。
コンコン。
何の変哲もない普通の音がします。

太陽の光に透かして見てみました。
何も見えません。

砂浜に軽く放り投げてみました。
何も起こりません。

箱の上に座ってみました。
その時です。
ぐしゃっ、ぷしゅーーーっ。

 

 

尻もちをついた茉麻は、目をぱちくりさせました。
お尻の下を見ると、白い箱はぺしゃんこに潰れています。

「あ、やば」
慌てて自分の顔や手を確認しましたが、

肌はぴちぴち、皺ひとつ無く、若々しいままです。
「あれ‥‥?」

茉麻はぽんっと手を打ちました。
「そっか! だって開けたわけじゃないもんね!

 勝手に潰れただけだもんね!」

茉麻はぺしゃんこの箱を一瞥して、
「‥‥ま、壊れちゃったもんは仕方ないか」
箱の残骸を浜辺に放置したまま、走って家に帰りました。

 

 

 

○ O o 。○ O o 。

 

 

 

数日後、浜辺で拾ったティッシュペーパー(らしきもの)で

鼻をかんだ小春ちゃんが突然老け込むという、

不思議な事件が起こりました。

 

 

 

 

 

           : ノノハヽ

          : ノリo´ゥ`リ :.

          .: /∪ つ┓:

          : し''`J:: ┃

 

 

 

 

 

 

 

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