予告状
ある日、石川梨華の家の郵便受けに1枚の紙切れが入っていた。
【 今夜0時、ハロープロジェクトのメンバーを殺しに行きます 】
「キャーーー!!! 何これえええええええ!!!」
梨華はマンション中に響きわたる金切り声で悲鳴を上げると、
その紙切れを持って同期の吉澤ひとみの家へと走った。
「うわっ、どうしたの梨華ちゃん。 なんか顔が黒いよ」
「うるさいわね、元からよ。
そうじゃなくて、ちょっとこれ見て、よっすぃ〜」
玄関先に出てきたひとみに、梨華はその紙切れを差し出した。
「何これ。 ‥‥‥ハロメンを、殺す?」
「Yes! 殺人予告よ!
犯人はきっと私たちの美しさに嫉妬したジャニヲタね!」
「ひょー。 怖いねぇ」
「もう! 呑気なこと言ってないでどうにかしてよ」
「なんであたしが」
「困ってるのが私なんだから、
助けるのはよっすぃ〜に決まってるでしょ」
「‥‥あれ、裏にも何か書いてあるよ」
ひとみは梨華の言葉を無視して、紙切れを裏返す。
そこにはこう書かれていた。
【 最初のターゲットは、みうな。 やる気 】
梨華はそれを見て震え上がった。
「やだ、どうしよう! みうなが殺されちゃうの?」
ひとみが首を傾げて言った。
「でもみうなって、もうハロプロのメンバーじゃないよね」
「‥‥あ」
「だって去年クビに」
「それ以上言っちゃだめよ」
「それにこの 『やる気』 って何だろう」
「“殺る”気ってことじゃないの?」
「うーん、それにしても文章が不自然だよ。
なぜか 『みうな。やる気』 の所だけ太い文字で書かれてるし」
ひとみはしばらく考えて、ぽんっと手を打った。
「分かった。 きっとこれはアナグラムだよ」
ひとみが部屋の奥から筆記用具を持ってきて、
紙に何かを書いている。
ていうかアナグラムって何ですか、と梨華は訊こうとしたが、
ひとみにバカにされるのは癪なので黙っていた。
【 M I U N A Y A R U K I 】
「このアルファベットを並べ替えると、‥‥ほら」
【 K U M A I Y U R I N A 】
梨華は驚いて目を白黒させる。
「く、熊井友理奈?」
「そう。 ターゲットはたぶん熊井ちゃんだよ」
§ § §
梨華とひとみは相談して、
その日の夜、熊井ちゃんをひとみの家にかくまうことにした。
予告された時間は深夜0時。
その時間を無事に過ぎれば、きっと殺人犯は諦めてくれるだろう。
梨華とひとみは熊井ちゃんを挟んで、3人で同じベッドに寝た。
少々狭いが仕方ない。
ちなみに、熊井ちゃんの足はベッドから20cmはみ出していた。
ロリコンのひとみは熊井ちゃんの寝顔を見ていたらムラムラ
してきたので、ソフトタッチでこっそり悪戯した。
§ § §
次の日、またしても梨華の家の郵便受けに予告状が入っていた。
【 邪魔しやがって。 今日はきっちり殺してやるからな。
また深夜0時だ 】
「キャーーー!!! よっすぃーーー!!!」
梨華は力の限り叫びながら、またひとみの家に駆け込んだ。
玄関のドアを開けたひとみは、眠そうに顔をしかめながら言った。
「また来たの?」
「うん」
紙切れの裏を見てみると、今度は次のようなことが書かれている。
【 石黒 彩。 Ark 】
梨華は英単語を指差して訊ねた。
「石黒さんはともかくとして、Arkって何?」
「英語で“ノアの箱舟”って意味だよ」
梨華の顔がひきつった。
「ノア!? 確かこの前ののが生んだ子供、
“のあ”って名前だったよね!?
もしかして次のターゲットはののってこと‥‥?
いやああああああ!!!」
梨華のキンキン声に耳をふさぎながら、
ひとみがなだめる。
「落ち着いて、梨華ちゃん。 多分これもアナグラムだよ」
【 I S H I G U R O A Y A A R K 】
ひとみは紙にアルファベットを書き、
しばらく色々な文字列を書き殴った。
5分ほど粘って、ようやく答えを見つけたようだ。
「たぶんこうじゃないかな」
【 A I R I S H U G O K Y A R A 】
「愛理‥‥しゅごキャラ?」
「うん。 ターゲットは愛理ちゃんに変更か‥‥」
「なんかキッズばっかり狙われるのね」
梨華が心配そうに言った。
ひとみのほうを見ると、
なぜか拳を握りしめてプルプルと震えている。
「‥‥‥ちくしょう」
「え? 何?」
「‥‥なんで‥‥なんで愛理ちゃんがこんな目にあわなきゃ
いけないんだあ!
うわーん、死んじゃやだよ愛理ちゃん愛理ちゃん」
「ちょ、ちょっとよっすぃ〜落ち着いて」
突然ひとみが泣き出したので、梨華は困っておろおろした。
梨華は知らなかったのだが、
ひとみは最近℃-uteのイベントに行ってから
愛理ヲタになっていたのだった。
§ § §
その日の夜、ひとみは愛理ちゃんを自分の家に連れ込んだ。
ちなみに梨華は邪魔なので、
色々と理由をつけてなんとか追い出した。
今日は愛理ちゃんと2人きりである。
「私、殺されちゃうんですか? 怖い‥‥」
「ぐふふ、大丈夫だよ、あたしが守ってあげるから」
「ありがとうございます‥‥優しいんですね、吉澤さんって」
「げへへ、それほどでも」
ひとみは愛理ちゃんと一緒のベッドで寝た。
せっかくなので、おいしく頂いた。
§ § §
次の日、またしても梨華の家の郵便受けに (ry
【 いいかげん邪魔すんじゃねーよ。 今度こそ仕留めてやる 】
「キャーーー!!!」
梨華はとりあえず悲鳴を上げて (ry
梨華はひとみの家のインターホンを鳴らしたが、
今日はなかなか出てこない。
ぴんぽーん。
‥‥ぴんぽんぴんぽんぴぽぴぽぴぽ
鳴らし続けていると、うんざりした表情のひとみがドアを開けた。
「またかよ‥‥」
「よっすぃ〜遅い! 一刻を争うんだからさっさと出てきなさいよ」
梨華がプンスカ怒っていると、
ひとみの後ろから愛理ちゃんがひょっこり顔を出した。
「あ、すみません。 じゃあ私はこれで失礼します」
愛理ちゃんはそう言って、
梨華の横をすり抜け、そそくさと帰っていった。
梨華はぽかんとしてその後ろ姿を見送っていた。
「で、今度は誰の名前が書いてあるの?」
ひとみがあくびをしながら言った。
梨華は気を取り直して、真剣な顔で答える。
「今日は全然知らない人よ。 これ、犯人の名前かしら?」
紙切れの裏にはこう書かれていた。
【 佐野 美奈子 】
ひとみはため息をついて言った。
「よくもまぁ懲りないもんだね。 またアナグラムだよ」
【 S A N O M I N A K O 】
ひとみは面倒くさそうに紙とペンを取り出し、
アルファベットを書いた。
「で、これを並べ替えると、こうだ」
【 M A N K O N I S A O 】
「ま、まん‥‥こに竿? ‥‥キャー! よっすぃ〜のエッチ!」
梨華は頬を赤らめて、手で顔を覆った。
「最近、男関係で派手にやっちゃったのは、
ののと飯田さんとミキティ。
まぁデキ婚の2人は産休中でハロメン扱いしないだろうし、
ターゲットはきっとミキティだよ」
「どうしよう、美貴ちゃんを助けなきゃ。
じゃあ今日もよっすぃ〜の家に」
「えー、やだよ。 めんどくさい」
ひとみは、せっかく愛理ちゃんとお楽しみ中だったところを
梨華に叩き起こされたので、少々機嫌が悪いのである。
思いがけないひとみの言葉に、梨華が目を剥いた。
「なっ‥‥なんでそんなこと言うのよ!
本当に美貴ちゃんが殺されたらどうするの!?」
「ミキティは強いから平気だよ」
「何言ってるの! 相手は殺人犯なのよ!」
「絶対ミキティのほうが怖いし」
「ちょっとよっすぃ〜薄情すぎるんじゃない!?
‥‥そりゃあ私だって、
美貴ちゃんのことあんまり良く思ってない時期もあったわよ!
でも同じハローの仲間でしょ!?
ガッタスの絆はどうしたのよ!
仲間がピンチの時には助けてあげないと」
「きっと庄司が助けてくれるよ」
「‥‥そ、それは言わない約束でしょ」
仕方ないので、梨華は自分の家に美貴をかくまうことに決めた。
電話をかける。
「美貴ちゃん、今夜うちに来ない?」
『なんで?』
「今日美貴ちゃん殺されるんだって」
『はあ? 何言ってんの?』
「あの、えっと、殺人予告が」
『つーか今夜デートだから無理』
「また岩盤浴?」
『うるさいな。 じゃあね』
電話は切れた。
§ § §
深夜0時。
予告通り、1人のハロプロメンバーが殺された。
【 S A N O M I N A K O 】
A N
O
S K O
A M
N I
【 K O N N O A S A M I 】