新ユニット

 

 

 

 

 

期間限定とはいえ、hANGRY&ANGRYというユニットが決まって

私は正直ひと安心していた。

 

エルダメンがハロプロを卒業するという話はもう内部では

ずっと前から出ていたし、

それに加えて美勇伝の解散もあって、

私は今後の芸能活動に大きな不安を抱えていたからだ。

 

h&Aはそれなりにハロプロファンの注目を集めることもできたし、

私とよっすぃ〜の絡みを崇める一部の熱狂的なファンなどは

もうお祭り騒ぎだった。

 

今の私たちにとって、

ハロプロの枠を超えた外部の仕事というのはありがたい。

これで新規ファンを獲得できるなんて甘い考えは持っていないけど、

(どうせ購買層はヲタと呼ばれる人たちだけだろう)

このユニットのおかげで

ハロプロ卒業後の仕事にも少し希望が持てるようになった。

 

 

それに、この仕事は楽しかった。

普段はできないメイク、普段は着られない衣装。

いつもと違う曲調の歌を、いつもと違う歌い方で歌う。

どちらかというとハロプロの中で内輪向けの仕事をすることが

多かった私にとって、

hANGRY&ANGRYでの活動は新鮮なことばかりだった。

 

気心の知れた同期のよっすぃ〜が相方というのも心強かったし、

こんなに純粋に楽しめるユニットは久々だった。

びゆ(ry

 

 

† † †

 

 

「あんじぇりーあ♪」

 

h&Aの曲を口ずさみながら事務所の廊下を歩いていると、

女子トイレからよっすぃ〜が出てきた。

 

「あ、よっすぃ〜もお仕事だったの?」

「やっぱ梨華ちゃんか」

「何よそれ」

「いや、トイレ入ってたら遠くからボエ〜と」

「???」

 

“ぼえー” とは何のことだろう。

私が歌っていたのはhANGRY&ANGRYの曲である。

 

まぁ良い。

さすがよっすぃ〜、私の声を遠くからでも判別できるなんて!

これぞ同期の絆!

 

「うん、そうなの。 私Angelia歌ってたんだ」

「あーあれの曲ね、いんぐりもんぐりみたいな名前の」

「ハングリーアングリーでしょ!

 自分がやってるユニットの名前くらい覚えなさいよ」

「‥‥覚えてるよ、冗談だよ」

 

よっすぃ〜は苦笑いをして、話題を変えてきた。

 

「そういえば梨華ちゃん、さっき小耳に挟んだんだけど」

「何よ」

「なんかまたハローで新しくユニット作るらしいよ」

「誰が?」

「分かんない。 エルダ4人とワンダ1人の5人組

 ってのは聞いたけど」

「え‥‥何それ」

 

おかしなことをするものだ。

エルダークラブのメンバーは来年の3月でハロプロを卒業する。

今さらワンダメンとユニットを組ませて何がしたいのか。

 

「どうせ事務所推しの子ばっかでしょ」

「うーん、まぁそうかもね」

「ワンダなら愛ちゃんとか小春ちゃんとか、

 舞美ちゃんとか愛理ちゃんとか」

「いや分かんないよ。 10年記念隊の例もあるし」

 

そういえばすっかり忘れていたが、そんなユニットもあったっけ。

今考えてもあれはアンバランスな人選だった。

コンセプトがはっきりしないユニットというのは、どうしても

印象に残らないものだ。

 

「ところでそれ、いつ発表なの?」

「今週末か来週には告知するって言ってた」

「ふーん、そうなんだ」

 

今の段階ではそうとしか言いようがない。

私もよっすぃ〜も他人事だった。

 

「ま、少なくともあたしたちは無いでしょ。

 チングリーマングリーがあるし」

「ハングリーアングリー!

 もーよっすぃ〜ったら相変わらず物覚えが悪いんだから」

「分かってるよ、冗談だよ」

 

よっすぃ〜とはその後また少し世間話をしたけど、

他には特にホットなニュースもなかったので

「お疲れ」 と言って別れた。

 

 

† † †

 

 

――――――――――

 

『 謎の新ユニット 「スクール☆ガール」 誕生! 』

 

(中略)

 

今年もハロープロジェクトからスペシャルユニットが大決定!!!

エルダークラブから4人、ワンダフルハーツから1人、

ある共通点に沿ってメンバーを選抜し、

新ユニット 「スクール☆ガール」を結成しました。

来年1月14日にデビューシングル 『学級日誌のあなた』 が

リリースされます。

 

明日からの5日間、1日に1人ずつメンバーを発表していくよ!

5人の正体はいかに!? ヒントはユニット名!?

続報に乞うご期待!

 

――――――――――

 

 

ハロプロ公式ホームページのうすら寒い告知文を読んで、

私は首を傾げた。

新しいことに挑戦しようという心意気は買わんでもないが、

告知の方法なんかより

もっと他に気合いを入れるべきところがあるだろう。

 

それにしても、5人のメンバーとは誰なのか。

私の幅広いネットワーク(柴ちゃんとよっすぃ〜と保田さん)を

駆使しても、突き止めることができなかった。

ハロメンにさえ秘密にしているのだろうか、あの事務所は。

 

 

† † †

 

 

――――――――――

 

巷で話題の謎のユニット、「スクール☆ガール」!

いよいよ1人目の発表です!

 

高橋 愛

 

――――――――――

 

 

「やっぱりね」

「この子は外さないよね」

 

私とよっすぃ〜は、顔を見合わせて苦笑した。

 

現在、ハロプロは空前の高橋ブームである。

何に関しても愛ちゃんを最優先で推すことが暗黙のルールと

なっているのだ。

 

 

今日は暇なので、私はよっすぃ〜の家に遊びに来ている。

今日“も”だろwww という煽りは無しの方向で。

 

私たちは午前中からPCの前に張り付き、

公式ホームページでF5を連打していた。

ファンの人たちも同じなのだろう。

ページはひどく重くて、表示されるまで物凄く時間がかかった。

 

「これさぁ、誰になるのか本当にみんな知らないらしいよ」

「え? もしかして選ばれる予定の人たちにも伝わってないの?」

「そうみたい」

「じゃあ今頃、他のハロメンも公式リロードしまくってるのかなぁ」

「あはは、そうかもね」

 

 

† † †

 

 

――――――――――

 

「スクール☆ガール」、今日は2人目の発表です!

 

中澤 裕子

 

――――――――――

 

 

「ちょwwwww」

「出たwwwwwwww」

 

愛ちゃんと中澤さん。

不思議な組み合わせに首をひねる。

中澤さんなんかガールって年でもないでしょうに。

‥‥ん? もしかして。

 

「ねぇ、よっすぃ〜」

「なに」

「“ある共通点に沿ってメンバーを選抜”ってあるじゃん?」

「うん」

「この共通点って、歴代リーダーってことじゃない?」

 

中澤さんと愛ちゃんの共通点なんて、

リーダーということしか思い浮かばない。

何か法則があるとすれば絶対にそれだ。

ということは、よっすぃ〜も選ばれる予定なのかもしれない。

 

「まさかー。 だってあたしにはセンズリーパイズリーが」

「ハングリーアングリーでしょ!」

「冗談だよ」

 

どこまでもふざけるよっすぃ〜にイライラしつつ、

私はなんとか気を取り直して自分なりの考えを言ってみる。

 

「だってね、よく考えてみて?

 エルダから4人、ワンダから1人だよ?」

「あー、そっかぁ」

「中澤さん、飯田さん、矢口さん、よっすぃ〜、

 ここまででエルダ4人でしょ」

「で、次が高橋でワンダ1人ってことか」

「そうそう!」

「なるほど! 梨華ちゃん珍しく頭いいね」

「ふふん」

 

一瞬、鋭い目つきで不機嫌な表情のあの人が

脳内にちらついたが、

気づかないふりをしてやり過ごした。

 

「あれ? でも高橋って確か6代目‥‥」

「気のせい気のせい」

 

 

† † †

 

 

――――――――――

 

「スクール☆ガール」、3人目の発表です!

 

大谷 雅恵

 

――――――――――

 

 

「ええええええええええええええええええ」

「何だそれーーー」

「一気に分かんなくなったね」

 

私とよっすぃ〜はがっくりとうなだれた。

娘。という縛りをなくしたとしても、

メロン記念日のリーダーは斉藤さんなので、

これで歴代リーダーという線は消える。

 

愛ちゃん、中澤さん、まぁしぃ。

一体この3人にどんな共通点があるのだろうか。

 

よっすぃ〜はぽかんと口を半開きにして、

間抜けな顔で考え込んでいる。

「ねぇねぇ、ちょっと最初の告知見直してみようよ」

私はよっすぃ〜からPCのマウスを奪い取って、

3日前の告知ページを開いた。

 

 

『明日からの5日間、1日に1人ずつメンバーを発表していくよ!

 5人の正体はいかに!? ヒントはユニット名!?

 続報に乞うご期待!』

 

「ユニット名がヒント‥‥?」

私が呟いた途端、黙っていたよっすぃ〜がポンと膝を打った。

「分かった! 共通点が!」

「ほんとに!?」

私はびっくりしてよっすぃ〜の顔を見上げる。

 

「残りの2人が誰なのかも大体分かった」

「何? 何? 教えてよ」

「えぇ〜〜〜どうしよっかなぁー」

 

よっすぃ〜はわざとらしくもったいぶってニヤニヤしている。

 

「いいから早く言いなさいよ、あと2人って誰?

 どんな法則で選ばれてるの?」

「いやー、ネタバレしちゃったら梨華ちゃんもつまんないっしょ」

「つまんなくない! 気になるもん! 誰?」

「でもぉー」

「まさか‥‥自分だって言うんじゃないでしょうね?」

「いや、それはない。

 だってあたしにはズングリームックリーが」

「それは柴ちゃんでしょ!」

 

私のイライラは頂点に達した。

 

「もう! なんでそんな無駄に引っ張るの!」

「うわっ梨華ちゃんが怒った」

「そういうのを誘い受けって言うのよ!」

 

よっすぃ〜は少し考える素振りを見せたが、ぷいっとそっぽを向いた。

 

「やっぱやーめた」

「どうして!」

「だってもし間違ってたらやだもん」

「何よそれ!」

「じゃあ明日になったらってことで」

 

 

† † †

 

 

――――――――――

 

「スクール☆ガール」、4人目の発表!

 

保田 圭

 

ついに残りは1人です!

 

――――――――――

 

 

よっすぃ〜はPCの前の椅子に1人で座って、

告知文を読みながら勝ち誇ったようににやけていた。

「へっへっへ、やっぱり当たってた」

 

いいかげん我慢できなくなって訊ねてみる。

「そろそろ教えてよ。 この人たちの共通点って何なの?」

 

よっすぃ〜は偉そうに腕を組み、おもむろに足を組み替え、

床に座っている私を尊大な態度で見下ろした。

「じゃあ頭の悪い梨華ちゃんにも分かるように言ってあげようか」

 

ムカつくーーー!!!!!

アフォだと思っている奴にバカにされるのは癪である。

 

でもここで反抗したら、また教えてくれないかもしれない。

私は諦めて下手に出た。

「はいはい、知りたいです、お願いします」

 

よっすぃ〜は得意げに切り出した。

 

「ヒントあったじゃん?」

「ユニット名だとか‥‥スクール☆ガール?」

「そう、それ、スクール。 あたしはそれでピンと来たね」

「えぇ?」

「で、今まで発表された4人の名前。 高橋、中澤、大谷、保田」

「意味分かんない」

「じゃあ紙にでも書いてみな」

 

よっすぃ〜に言われた通り、

私はその辺にあった紙切れに4人の名前を書いた。

「なんか気づかない?」

「なんかって‥‥‥あ! もしかして」

 

文字に目を滑らせてみて意味が分かった。

頭文字だ!

高橋の“高”、中澤の“中”、大谷の“大”、保田の“保”。

 

「高校、中学、大学、保育園!」

「正解正解。 4人の苗字は教育機関の頭文字だったんだよね」

「そっか! それでヒントが“スクール”なのね!」

 

 

私は嬉しくなって、よっすぃ〜と一緒に推理を続けた。

 

「残るは小学校、つまり名前の頭文字が“小”の人」

「今のところワンダが1人、エルダが3人出てるから」

「最後の1人はエルダ!」

「エルダメンで“小”がつくのは!」

「小川麻琴!!!」

「よーし! ひーちゃんマコトに電話しちゃおうっと!」

 

って、ちょっと待て!

慌ててよっすぃ〜を止める。

 

「やめなよ、本人も知らないだろうしネタバレさせちゃ

 まずいでしょ」

「えー、明日いきなり知ってびっくりするより、ワンクッション

 あったほうがいいじゃん」

「そんなんいつ知ったってびっくりするよ」

「だって、せっかく解けたんだから自慢しとかないと

 もったいないし」

「‥‥‥確かに」

 

私の道徳意識は自己顕示欲に負けた。

 

 

「あっ、もしもしマコトー?」

『吉澤しゃん! どうしたんですか?』

「あのねぇ、今ユニットのメンバー発表やってるじゃん?」

『はい』

「あれって最後の1人、マコトだよ」

『‥‥‥へっ!?』

「マジマジマジ、明日発表されるから楽しみにしてな」

『え、ちょ、それどういう‥‥』

「じゃあねー」

 

ピッ。

 

よっすぃ〜は一方的に電話を切ると、満足げにうんうん頷いた。

「良かった良かった、

 やっとマコトにもスポットライトが当たる時が来たか」

 

 

その後、麻琴から何度かメールが来た。

 

『明日のために驚く練習と喜ぶ練習しておきます!』

『新ユニットだし、気合い入れて美容院行ってきます!』

『久々にボイトレのレッスンすることにしました!』

『今ストレッチしてます!』

『せっかくだから明日5期で集まって飲み会でもしようかな(笑)』

『吉澤さんと石川さんも来ますか? なんつって(笑)』

 

 

麻琴の微笑ましいメールを見ながら、

私たちも幸せな気分になった。

今まで報われなかった後輩の活躍は素直に嬉しい。

 

ふと気になることがあったので、よっすぃ〜に訊ねてみた。

 

「ねぇ‥‥そういえばさ、

 教育機関なのに保育園ってちょっとアレじゃない?」

「へ?」

「どっちかと言うと保育園は福祉施設でしょ」

「あー、教育施設って言われるのは幼稚園のほうだもんね」

「まぁ、苗字に“幼”がつく人なんていないから

 保育園でもいいんだろうけど」

 

「あと、あたしも気になるっちゃー気になることがある」

「何?」

「教育機関の頭文字が答えで、

 スクールがヒントってなんか簡単すぎるよね」

「うーん、言われてみれば」

「まぁ、そんなに難解なクイズにする必要もないんだろうけど」

 

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「「‥‥ま、どうでもいいか‥‥」」

 

 

† † †

 

 

――――――――――

 

「スクール☆ガール」、ついにラスト、5人目の発表です!

 

飯田 圭織

 

涙の復帰を果たしたカオリンが満を辞して参加!

5人の共通点は分かりましたか?

それではスクール☆ガールを応援して下さいね!

 

――――――――――

 

 

高橋 愛

タカハシ アイ

      ( I )

 

中澤 裕子

ナカザワ ユウコ

      ( U )

 

大谷 雅恵

オオタニ マサエ

( O )

 

保田 圭

ヤスダ ケイ

     ( K )

 

飯田 圭織

イイダ カオリ

( E )

 

 

 

 

 

 

 

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