仲間はずれ

 

 

 

 

 

つんく♂さんから呼び出しを喰らった。

どうしよう、私はまた何かやらかしちゃったんだろうか。
思い当たることが多すぎる。
まぁ、怒られるのは慣れてるからいいけど。


びくびくしながら部屋に入ると、

同じように呼び出されたらしいキッズの面々がすでに集まっていた。
なっきぃ、あいり、かんな、りさこ、そして私を入れて5人。

私は直感した。
これはきっと新ユニットだ、と。
寺田のおじさんがまた何か的外れなことを企んでいるに違いない、と。


それにしても人選が微妙だ。
こんなの、梨沙子と愛理にファンが偏るに決まってんじゃん。
コンサートなんかやっちゃったら、私はまた雑魚メンとしての自分を

再認識するという屈辱に耐えねばならない。
あぁそうですか、いじめですかこれは。

私はなっきぃの隣の椅子に座った。
特に話すこともなく、私たちはただ黙って自分の手元を見ているだけ。
5人の女子中学生が無言で横1列に並んで座っている光景は、

なんだか異様に感じた。

 

 

私が沈黙に耐え切れなくなって何か喋ろうとした瞬間、

ドアが勢いよく開いた。
「おーおー、みんな集まったか。ごくろーごくろー」

自分が呼び出したくせに遅れてやって来たつんく♂さんは、

面倒くさそうに私たちを見渡して言った。

「はぁ‥‥えーと、鈴木、菅谷、中島、岡井、有原」
ちくしょう、見事に人気順で呼びやがる。

「まぁお察しの通り、5人でユニット組まそうか思って呼んだんやけどな。
 ここに来る途中でピコーンと来たんや。 やっぱ5人は多いかなぁ、と。
 それで4人に減らすことにした。

 で、申し訳ないけど誰か1人抜けてくれんかな。
 俺が決めて恨まれるのも嫌やし、自分らで抜ける奴決めたってや。
 うん、民主主義、民主主義。 ええ言葉やな。

 みんな仲良く、円満に頼むで。 じゃ、そういうことで」

つんく♂さんは早口でそれだけ喋ると、

バタンとドアを閉めて忙しそうにどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

みんな言葉を失って、お互い顔を見合わせている。

‥‥誰か1人を追い出せ? お前らが決めろ?
そりゃないよ。
逃げやがったな、おっさん。
こんなの円満に決められるわけねえだろ。


「あのさ」
私が呆れてぽかんと口を開けていると、

なっきぃが上目遣いでみんなを見回して気まずそうに話し始めた。
「まぁ‥‥とりあえず決めようよ。

 つんく♂さんに逆らうわけにもいかないし」


少し間があって、愛理が不自然な笑顔を作って同調した。
「そ、そうだね、さくさくっと話し合っちゃおう」

梨沙子も言った。
「うんうん、みんすしゅ、み、ミンススギだよね」
言い直したくせに前よりひどくなっている。

栞菜が言った。
「決めるって、どうやって?」

 

 

みんな困って黙り込んだ。
どうせ私たちが何を言ったって、つんく♂さんの言うことには逆らえない。
でも、ライバル心むき出しで仲間を蹴落とそうとするなんて

私たちにはできない。

あーもう、こんなことさせて今後の人間関係に響いたらどうすんだよ。
これだから無責任なおっさんは嫌いだ。 死ね、つん糞。

‥‥おっと暴言暴言。


なっきぃが口元を歪めて小声で言った。
「要するに‥‥仲間はずれを決めるってことでしょ?」


その瞬間、私はひらめいた。
脳味噌が、13年間の人生で初めてとも言えるほどのフル稼働をし始める。
やっべぇ! すげーいいこと思いついちゃった。

新ユニットは願ってもない大チャンスだ。
たとえ雑魚メン扱いだとしても、選抜メンバーとして売り出されるのだ。
この躍進のチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。

 

 

「じゃあさ、じゃあさっ」
私は自分のアイディアに感動しつつ、愛理の服の裾をくいくいと引っ張った。
「どうしたの、千聖。 そんな目ぇキラキラさせて」

私は得意げに言った。
「ここで真面目に話し合ったりして喧嘩になって、あとでこじれたら嫌じゃん?
 この際、もう簡単にプロフィールとかで適当に、っていうか形式的に

 仲間はずれ決めちゃおうよ」


みんな一瞬、「何言ってんだコイツ」 的な目で私を見たけど、

なぜかすぐに納得したようだった。

「あー‥‥そうだね、人間関係含めて誰が仲間はずれかなんて話し合い

 始めたら、雰囲気悪くなりそうだし」
「プロフィールって、誕生日とか出身地とか?」
「どうせ誰か1人抜けなきゃいけないなら、

 割り切ってそういうもので決めたほうが確かにいいかもね」
「うん、それなら悔しいけど仕方ないって思えるかも」


思いのほか反論もなく、びっくりするほど簡単に話は進む。
はっはっは、バカ共め。
自分に危機が迫っているとも知らずに、呑気なもんだ。

 

 

誰かに先を越される前に、私は筆記用具を取り出して、

そこら辺にあった紙に次のようなことを書いた。

 

     名前

  出身地

  生年

    星座

 血液型

  所属ユニット

 菅谷 梨沙子

 神奈川

 1994

 おひつじ座

 A

 Berryz工房

 中島 早貴

 埼玉

 1994

 みずがめ座

 O

 ℃-ute

 鈴木 愛理

 千葉

 1994

 おひつじ座

 B

 ℃-ute

 岡井 千聖

 埼玉

 1994

 ふたご座

 A

 ℃-ute

 有原 栞菜

 神奈川

 1993

 ふたご座

 A

 ℃-ute

 

 

プロフィールの項目は、

出身地、生まれ年、星座、血液型、所属ユニット。
この項目でなければいけない。
そう、私が仲間はずれにならないためには。

出身地なら、仲間はずれは愛理。
生まれ年なら、栞菜。
星座なら、なっきぃ。
血液型なら、なっきぃか愛理。
所属ユニットなら、梨沙子。

プロフィールの共通点から決めるとしたら、私は絶対に

仲間はずれにはならないのだ。
まぁすでに他の項目で決まってるから『血液型』は要らなかったかも

しれないけど、プロフィールと称する以上、入れたほうがいいかなと

思って付け足した。


私は心の中でほくそ笑んだ。
岡井千聖、これで新ユニット入り確定。

しっかりこのチャンスをモノにしよう。
そしてお父さんとお母さんと3人の弟妹たちに、楽をさせてあげるんだ。
今まで稼ぎが少なくてごめんね。
お姉ちゃんは今度こそ人気メンにのし上がるからね。

だてに乳ばっか膨らんでるわけじゃないんだ。
私が本気出せば、愛理や梨沙子を超えることも不可能ではないはず。

 

 

 

 

私が書いた5人のプロフィールを、みんなはじっと見つめていた。
なっきぃ、あいり、かんな、りさこ。
4人の視線が交錯し合い、誰からともなく顔を見合わせる。

何? 何? みんなどうしたの?
私は戸惑った。


そして4人は、なぜか一斉に私の顔を見た。

愛理が言った。
「やっぱさ‥‥ユニットって1人1人の個性が大事だよね」

沈黙が流れた。
次の瞬間、私は自分の作戦が大失敗に終わったことを知る。
なっきぃがにっこり笑って言った。


「被ってる奴が仲間はずれね」

 

 

 

 

 

 

 

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