連鎖

 

 

 

 

 

モーニング娘。は危機に瀕していた。

この1ヶ月の間に、高橋、新垣、亀井、道重が

相次いで死亡したのだ。

 

普段はハロプロを極力無視しているマスコミも、

こぞってこのニュースを取り上げた。

世間は、「次の犠牲者は田中か!?」 と騒いでいる。

今やモー娘。といえば

“ラブマの法則” ならぬ “年増の法則” が有名になっていた。

 

これによってメンバー1人1人が急激に認知され始め、

CDもちょっとだけ売れた。

つんく♂は急遽、第9期オーディションを開催することを宣言した。

 

 

 

 

 

 

高橋の最期を看取ったのは新垣だった。

2人が渋谷で買い物をしている最中、高橋は路上で

突然苦しみ出し、大量の血を吐いて死んだという。

 

息絶える直前、血まみれの高橋が喉から言葉を絞り出した。

 

「でぃー‥‥ぶい‥‥」

「え? 何? 愛ちゃん、何?」

「‥‥でぃー」

「え? DV? それってつまりドメスティックバイオレンス?」

「違う‥‥‥でぃー‥‥‥」

「家庭内暴力に悩んでたのね!?

 やだ、私、全然気づかなくて! ほんとごめん!」

「‥‥ちが‥‥」

「やっぱお父さん? それともお母さん? もしくは妹さん?

 はたまた彼氏さん?」

「‥‥でぃ‥‥‥‥」

「いやあああああ! 愛ちゃあああん死なないでえええええ」

 

 

高橋は訂正する前に死んでしまったが、新垣は後になって、

「あれ‥‥なんかDが多かったな」

それがDVDのことだと思い当たったのだった。

 

 

後日、高橋の部屋を訪問した新垣は、

プレーヤーに入ったままのDVDを見つけた。

不気味なほど真っ黒なDVD。

何か胸騒ぎがする。

新垣は少しためらってから、それをセットし直して

再生ボタンを押した。

 

ザーーーーー、という音と共に、

テレビの画面は砂嵐を映し出している。

10秒、20秒。

何かが映る気配はない。

 

諦めて停止ボタンを押そうとした瞬間、

画面は灰色の砂嵐から真っ黒に変わった。

 

「え? 何これ‥‥」

 

真っ黒な背景に、赤い文字が浮かび上がる。

新垣は背すじが凍りつくのを感じた。

 

『 こ の D V D を 見 た 者 は 、 1 週 間 後 に 死 ぬ 』

 

 

新垣はこのことを誰にも告げず、

DVDを燃えるゴミの日に捨てた。

その1週間後、自宅で彼女の変死体が発見された。

 

 

 

 

 

 

犠牲者はこのように年増の法則に則って

新垣、亀井、道重と続く。

正確には、亀井と道重は同時である。

 

 

新垣が捨てたはずのあのDVDは、いつの間にか

亀井の部屋のCD収納ラックに紛れ込んでいたのだ。

 

ちょうど道重が亀井家に遊びに来た日。

自分たちのライブDVDを見るつもりで、亀井はそれを

プレーヤーにセットした。

 

「ん? 砂嵐しか出ない‥‥」

「もう、絵里間違えたんじゃないの?」

「あれー、おかしいなぁー」

 

突然、画面が黒く切り替わる。

浮かび上がる血文字。

『 こ の D V D を 見 た 者 は 、 1 週 間 後 に 死 ぬ 』

 

「や、やだー、何これぇ」

「なんか気持ち悪いね」

「絵里まだ死にたくなーい」

「あ‥‥ねえ、もしかして‥‥愛ちゃんとガキさんって」

「え? え? ちょっと、さゆってば怖いこと言わないでよぉ、

 それじゃ絵里たちも‥‥」

 

亀井と道重は顔を見合わせて震え上がった。

 

「やだもう、こんなの早く捨てちゃお」

「あのさ、御祓いとかしてもらったほうがいいんじゃないの?」

「おはらい?」

「ほら、みっつぃーのお父さんとか。 お寺の住職さんだし」

「そっか! じゃあみっつぃーに頼もう。 さゆ、電話して」

「え‥‥さゆみが?」

「言いだしっぺだもん」

 

―――沈黙が流れた。

気まずさを振り切るように、道重が呟いた。

 

「‥‥こんなこと軽々しく頼んじゃっていいのかな?」

「へ?」

「だってさぁ、正直そんなにみっつぃーと仲いいわけでもないよね」

「あー」

「あっちもそんな義理ないでしょ」

「確かにー」

「だからって他あたるのも‥‥ちょっとね」

「めんどくさいしね」

「うん」

「捨てよっか」

「うん」

 

 

亀井と道重は、DVDを燃えるゴミに出した。

1週間後、2人は同時刻に苦しみ出し、血を吐いて死んだ。

 

 

 

 

 

 

モーニング娘。はあっという間に残り5人となった。

ちなみに、この時点で田中がリーダーに昇格している。

 

「あれ‥‥何か入っちょる」

自分のバッグの中身をあさっていた田中は、

見慣れないものを発見した。

「何やろ、このDVD。 誰かから借りたっけ」

亀井と道重が捨てたはずのDVDは、

今度は田中のバッグの中に潜んでいた。

 

 

ハロモニ@の収録があった日、

亀井と道重は、妙なDVDを見たということを娘。メンバーたちに

話していたのだが、田中はそのとき運悪くトイレに行っていて

その話を聞いていなかったのだ。

あとで田中に教えてやる者もいなかった。

 

 

何の警戒心も持たなかった田中は、

逃れられない運命の餌食となる。

『 こ の D V D を 見 た 者 は 、 1 週 間 後 に 死 ぬ 』

 

田中は震える手でライターを掴むと、DVDに火をつけた。

ドーナツ型のそれは、徐々に溶けて歪んでいく。

 

それから1週間後、彼女は帰らぬ人となった。

 

 

 

 

 

 

田中が燃やしたはずのDVDは、久住の手元にあった。

「これ‥‥まさか」

 

表面には何も書いていない、真っ黒なDVD。

知らないうちに久住のバッグに入っていたのだ。

久住はあの時、亀井と道重の話を聞いていたので、

これがその呪いのDVDなのだということは

なんとなく予想がついていた。

 

これを見たら死んじゃうかもしれない。

怖い。

でも、見ると死ぬなんて一体どんなDVDなんだろう。

知りたい。

本当に自分は死んでしまうのだろうか。

知りたい。

見ると死ぬかもしれない。

怖い。

でも見たい。 やっぱり見てみたい。

 

恐怖心は好奇心に負けた。

 

久住はそれをプレーヤーにセットし、再生した。

『 こ の D V D を 見 た 者 は 、 1 週 間 後 に 死 ぬ 』

 

恐怖に駆られた久住は急いでDVDを取り出すと、

力任せに真っ二つに割り、

叩きつけるようにゴミ箱に捨てた。

 

それから1週間後、彼女は帰らぬ人となった。

 

 

 

 

 

 

帰宅してバッグの中を覗いた光井は、ため息をついた。

「‥‥ついに回ってきたか」

 

久住が割ったはずのDVDは、今度は光井の手に渡ったのだ。

もちろん無傷のままで。

 

 

モーニング娘。には、もはや8期しか残っていなかった。

速すぎる展開に9期オーディションも間に合わず、現在は

光井、ジュンジュン、リンリンの3人で活動を続けている。

 

今までより楽屋が広くなった上に

うるさい先輩も全員いなくなったので、

3人はわりと快適な生活を送っていた。

ちなみに現在のリーダーはじゃんけんでリンリンに決まった。

 

 

「まぁ、回ってきたんなら見ろゆうことやんな」

光井は面倒くさそうにDVDをセットし、再生ボタンを押した。

 

数十秒の砂嵐のあと、黒い背景に浮かび上がる血文字。

 

『 こ の D V D を 見 た 者 は 、 1 週 間 後 に 死 ぬ 』

 

 

 

 

 

 

2085年、とある老婆の葬儀がしめやかに行われていた。

 

飾られた遺影の中で、皺だらけの顔が微笑んでいる。

黒目がちの瞳。 老いてなお重厚な存在感を放つアゴ。

光井愛佳、御年92歳の大往生であった。

 

棺の中で安らかに眠る光井。

会場には家族や知人のすすり泣きが悲しく響いている。

娘と思しき女性が、棺の中に黒いDVDを入れた。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、愛佳おばあちゃん」

「あいよ」

 

「おばあちゃんが昔アイドルだったってほんと?」

「ほんまほんま。 モーニング娘。ゆう国民的アイドルでな」

「わぁ、すごーい」

「ばあちゃんはバックダンサーの中国人2人引き連れて、

 堂々とセンター張ってたんや」

 

「じゃあモーニング娘。呪いのDVD事件ってなあに?」

「おお、あれは世にも恐ろしい事件やった。

 年増から順にクビを切られていくという大規模なリストラや」

「そっかぁ。 おばあちゃんは年下だったおかげで

 それを免れたんだね」

「ちゃうわアホ、そもそも優秀な人材は

 リストラの対象にならんやろ」

 

「ところで、おばあちゃんはDVDを見たのに

 なんでこんなに長生きしてるの?」

「ああ‥‥それはな」

 

光井はひと息ついて、お茶を飲んだ。

 

「ばあちゃんはそのDVDを毎週見とるからや」

 

 

 

 

 

 

 

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